ワキガ(腋臭症)の治療を医師が比較|手術・ミラドライ・外用薬と、菌を入れ替える新しい発想

ワキガ(腋臭症)の治療を医師が比較|手術・ミラドライ・外用薬と、菌を入れ替える新しい発想 美容医療

ワキガの治療は「どれが一番効くか」より先に、「自分のにおいと汗がどういう状態か」で選ぶものです。

手術、ミラドライ、ボトックス、塗り薬。どれも聞いたことはあっても、保険が使えるかどうか、どのくらい続くのか、何を代わりに引き受けるのかは、それぞれまったく違います。

そこに最近、米国のバイオベンチャーが「一度塗れば1週間においを抑える」という製品を開発中だという話が出てきました。医師のコミュニティでも話題になっています。

この記事では、私が美容皮膚科で自由診療に関わってきた立場から、いまある治療を一次情報で確かめて並べ直し、その新しい製品がどこに入りうるのかを整理します。

この記事は一般的な情報提供です。診断や治療の選択は、皮膚科・形成外科で診察を受けたうえで決めてください。

ワキガのにおいは、汗そのものではなく菌がつくる

脇には、汗を出す腺が2種類あります。全身にあるエクリン腺と、脇や陰部に多いアポクリン腺です。

アポクリン腺から出たばかりの汗は、ほとんどにおいません。 汗に含まれるにおいの元になる成分(前駆体)を、皮膚にすむ細菌が分解したときに、あの独特のにおいが生まれます。

2020年には、英国の研究グループが、においの強い硫黄化合物をつくる酵素を特定し、その酵素を持つ一部のブドウ球菌がにおいの発生に関わることを報告しています(参考文献1)。

体質の面では、耳あかが湿っているタイプと関係する遺伝子(ABCC11)の型が、腋臭症と強く結びついていることが日本人の研究で示されています(参考文献2)。

ここから、においを減らす方法は大きく2つの方向に分かれます。

  • においの原料になる汗(とその腺)を減らす
  • 原料をにおいに変える菌の側に働きかける

いまの日本で受けられる治療は、ほぼすべてが1つ目の方向です。 後半で取り上げる新しい製品は、2つ目の方向を狙っています。

腋臭症と多汗症は、制度の上では別の病気

皆さんに最初に知っておいてほしいのは、「においの病気(腋臭症)」と「汗の量の病気(多汗症)」は、保険の上では別に扱われるという点です。

  • 腋臭症に保険が使えるのは、主に手術です
  • ボトックス注射と外用薬(エクロックゲル、ラピフォートワイプ)の保険の対象は、原発性腋窩多汗症です
  • ミラドライが国内で承認を受けている使用目的も、重度の原発性腋窩多汗症の治療です

汗が多く、においもある方は、両方の診断がつくことがあります。逆に、汗の量は多くないけれどにおいが気になる方は、多汗症向けの保険の治療の対象にならないことがあります。

いまある治療を並べて比べる

治療 働きかける先 保険 効果の続き方 主な負担
手術(皮弁法・剪除法) アポクリン腺を取り除く 腋臭症で適用 取り除いた腺は戻らない 圧迫固定、血腫・皮膚壊死・傷あとのリスク
ミラドライ(マイクロ波) 汗腺を熱で変性させる 適用外(自費) ガイドラインは発汗抑制を永続的と記載 費用、腫れ・痛み・しびれ
ボトックス注射 汗を出す神経の信号を止める 重度の原発性腋窩多汗症で適用 通常4〜9か月 繰り返しの注射
外用抗コリン薬(エクロックゲル、ラピフォートワイプ) 汗を出す信号を皮膚で止める 原発性腋窩多汗症で適用 毎日1回使う 皮膚炎、散瞳・口渇・排尿障害
塩化アルミニウム外用 汗の出口をふさぐ 保険の外用薬なし(院内製剤) 続けて塗る かぶれ(刺激性接触皮膚炎)

手術(皮弁法・剪除法)は、腋臭症で唯一の保険の手術

脇のしわに沿って皮膚を切開し、皮膚を裏返して、においの元になるアポクリン腺を目で見ながら取り除く方法です。医療機関によって「皮弁法」「剪除法」と呼び方が分かれます。

診療報酬点数表では「K008 腋臭症手術」に区分され、皮弁法は6,870点です(参考文献3)。片側ごとに算定すると、両側で13,740点、つまり医療費は137,400円で、3割負担なら手術料だけで41,220円になります。実際の窓口負担は、これに診察料・麻酔・薬剤の費用が加わるため、4万円台から5万円前後がひとつの目安です。

手術の弱点は、体への負担です。

  • 術後は一定期間、脇を圧迫して固定する必要があり、その間は腕の動きが制限されます
  • 皮膚の下に血がたまる(血腫)、はがした皮膚が一部うまく生着しない(皮膚壊死)、傷あとが残るといったリスクがあります
  • 皮膚を薄くしすぎると壊死のリスクが上がるため、においを完全にゼロにするより、減らすことを目標にする施設もあります

確実性は高い一方で、このダウンタイムと合併症のリスクで踏みとどまる方が多い治療です。

ミラドライは「多汗症の機器」として承認されている

ミラドライは、皮膚の表面を冷やしながらマイクロ波を当て、汗腺の多い層を加熱して変性させる機器です。切らずに済み、施術後は日常生活に早く戻れることが特徴です。

国内では2018年に医療機器として製造販売承認を受けています。ただし、承認された使用目的は「重度の原発性腋窩多汗症の治療」です(参考文献4)。ワキガ(においそのもの)を目的にした施術は、この承認の範囲の外で行われていることになります。

承認時の審査報告書を読むと、申請者が当初書いていた「汗腺を焼灼する」という使用目的は、エクリン腺以外の汗腺にも効果があるという誤解を与えるとして修正させられています。米国では2016年に「多汗症の治療時に腋臭を軽減する効果」が追加されていますが、日本の承認にはこの内容は含まれていません(参考文献4)。

保険は使えない自費診療で、費用は医療機関ごとに設定されており、施設によって大きく異なります。

日本皮膚科学会の多汗症診療ガイドラインは、マイクロ波を含む機器による治療について、腋窩多汗症に対する推奨度をC1としています。小規模な報告はあるものの、有効性と安全性について結論を出すには根拠が十分ではない、という評価です(参考文献5)。

施術後には、腫れ、痛み、一時的なしびれが出ることがあります。2回目の施術を受ける方もいます。

「手術は怖いが、汗とにおいを減らしたい」という方の受け皿になっている治療ですが、においへの効果を数字で示した質の高い研究は、私が調べた範囲では見つかりませんでした。 施術を受ける前に、承認の範囲と期待できる効果を、担当医にはっきり聞いてください。

ボトックス注射は、重度の多汗症に保険が使える

A型ボツリヌス毒素を脇の皮膚に注射して、汗を出す神経の信号を止める治療です。

添付文書上、保険の対象は重度の原発性腋窩多汗症です。片側の脇に50単位を10〜15か所に分けて注射します(参考文献6)。

効果は、添付文書では通常4〜9か月で消えるとされ、効果が薄れたら再び注射します。再投与の間隔は16週以上あける決まりです。

汗が減ることで、においが軽くなる方もいます。ただし、においだけ(腋臭症のみ)の方は、この保険の対象には入りません。 また、脇以外の汗が増えることがあると添付文書に書かれています。

外用薬(エクロックゲル、ラピフォートワイプ)は毎日の薬

どちらも汗を出す信号を皮膚で止める抗コリン薬で、保険の対象は原発性腋窩多汗症です。

  • エクロックゲル:1日1回、適量を脇に塗る(参考文献7)
  • ラピフォートワイプ:1日1回、1包の不織布1枚で両脇に塗る(参考文献8)

副作用として、塗った場所の皮膚炎のほか、抗コリン作用による散瞳(まぶしさ、かすみ目)、口の渇き、排尿しにくさがあります。閉塞隅角緑内障の方と、前立腺肥大で排尿障害がある方は使えません。

臨床試験で効果を測ったのは、汗の重さと、汗による生活の困りごとの程度です。においそのものを主な物差しにした薬ではありません。 においが悩みの中心の方は、この点を知ったうえで使ってください。

塩化アルミニウムは、まず試してよい外用

汗の出口(表皮内の汗管)をふさいで汗を減らす外用です。多汗症診療ガイドラインは、腋窩多汗症に対して推奨度Bとし、「まず行ってよい治療」と位置づけています(参考文献5)。

ただし、保険診療で使える塩化アルミニウムの外用薬はなく、院内製剤として処方されるのが一般的です。刺激によるかぶれが出やすい点が、続けるうえでの難点です。

どの治療が誰に向くか

医師として整理すると、次の4つの軸で考えると迷いにくくなります。

  1. においが悩みの中心で、確実性を優先したい方は、手術を扱う形成外科・皮膚科で、腋臭症の診断と手術の適応を相談するのが筋です。ダウンタイムを確保できるかが判断の分かれ目になります
  2. 汗の量も多い方は、まず多汗症の診断を受けてください。外用薬、塩化アルミニウム、重症ならボトックスと、保険の範囲で段階的に試せます
  3. 切ることに抵抗があり、自費でもよい方は、ミラドライが選択肢に入ります。承認の範囲が多汗症であること、においへの効果の根拠が限られていることを理解したうえで決めてください
  4. 治療の前に、においの程度を自分で確かめたい方は、受診して医師に実際に確認してもらうことが出発点です。においの悩みは、実際の強さより不安のほうが大きくなっていることもあります

4つのうち、どれも「においをつくる菌」そのものには直接働きかけていません。 ここが、次に紹介する製品が狙っている空白です。

Swapとは何か:菌を「入れ替える」という発想

Swap(スワップ)は、米国サンフランシスコを拠点とするバイオベンチャー、Taxa Technologies が開発しているデオドラントです。共同創業者は Xavier Segel 氏と、日本人の福永祐一氏です。

公表されている情報から確かめられたことは、次のとおりです。

  • 発想:においの原因菌を殺すのではなく、においを出さない菌に入れ替える、と会社は説明しています(2025年3月のプレスリリース。参考文献9)
  • 改変:ワキガの原因菌の遺伝子改変に成功した、と創業者がインタビューで語っています(参考文献10)。どの菌をどう改変したかは公表されていません
  • 持続:公式サイトは「1回の塗布で1週間続く」と説明しています(参考文献11)。一方で、ウェイティングリストの利用規約には、Swapは開発中で、1週間という持続を含む説明は暫定的なものであり、今後の検証を受けると明記されています(参考文献12)
  • 試験:2025年11月の報道では、500人以上のユーザーによる試験を終えたとされています(参考文献13)。ただし、どのような方法で効果を判定したのか、結果の数字は公表されていません
  • 発売:米国での本格的な販売は2026年秋を見込むと報じられています(参考文献14)。製品サイトは現在「ベータ版として限定提供」と表示しています

日本での発売時期、価格、規制上の区分は、現時点で公表されていません。 日本で承認された製品でもありません。

Swapの位置づけ:汗を減らす治療とは別の軸

ここまでの治療を並べると、手術もミラドライもボトックスも外用薬も、においの原料である汗(とその腺)を減らす方向でした。

Swapは、原料をにおいに変える工程、つまり菌の側に働きかけるという点で、軸がまったく違います。

もし有効性と安全性が確かめられれば、次のような方にとって意味のある選択肢になる可能性があります。

  • 手術やミラドライに踏み切れない方
  • 毎日の外用が続かない方(週1回で済むという説明が事実であれば、続けやすさの点で差が出ます)
  • 治療のあとにわずかに残ったにおいが気になる方

ただし、これはあくまで仮定の話です。現時点では、効果の大きさも、どのくらいの人に効くのかも、第三者が確かめられる形では示されていません。 私自身、この製品を診療で使ったことはありません。

まだ分かっていないこと

私が医師として特に確かめたいのは、次の3点です。

  1. 効果の判定方法:においの評価は、本人の主観、第三者による官能評価、菌叢の変化の測定で、意味がまったく違います。試験がどの物差しで、対照を置いて行われたのかが公表されるまでは、効果を判断できません
  2. 日本での規制の扱い:日本では、体臭の防止を目的とする製品は医薬部外品の対象になりうる一方、化粧品は人体への作用が緩和なものと定義されています(参考文献15)。さらに、遺伝子を組み換えた生きた菌を、閉じた施設の外(人の皮膚の上)で使う場合は、カルタヘナ法にもとづく主務大臣の承認が必要になります(参考文献16)。ゲノム編集で外から加えた核酸が残らない場合は、この法律の対象外として情報提供で扱う整理もあります(参考文献17)。どの改変方法なのかが公表されていないため、どの手続きになるのかは現時点では判断できません
  3. 長く使ったときの安全性:皮膚にすみついた菌が、どのくらい残るのか、やめたあとにどうなるのか、肌の弱い方や皮膚に傷がある方で問題が起きないのか、まだ分かっていません

日本で未承認・未発売の製品について、効果を約束する広告や個人輸入をすすめる情報を見かけたら、慎重に受け止めてください。

まとめ

  • ワキガのにおいは、汗を皮膚の菌が分解してつくられる
  • 保険の上では、腋臭症(手術)と多汗症(ボトックス・外用薬)は別に扱われ、ミラドライの承認も多汗症の治療としてのもの
  • いまある治療は、ほぼすべてが汗とその腺を減らす方向
  • Swapは菌の側に働きかける新しい発想だが、効果の判定方法と日本での規制の扱いは公表されておらず、まだ評価の途中

皆さんが治療を選ぶときは、「何を減らす治療なのか」「保険の対象は何か」「何を代わりに引き受けるのか」の3つを担当医に確認してください。新しい選択肢は、データが出そろってから判断しても遅くありません。

参考文献

確認日はすべて2026年10月24日です。

  1. Rudden M, et al. The molecular basis of thioalcohol production in human body odour. Scientific Reports. 2020;10:12500. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7385124/
  2. Nakano M, et al. A strong association of axillary osmidrosis with the wet earwax type determined by genotyping of the ABCC11 gene. BMC Genetics. 2009;10:42. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19650936/
  3. 医科診療報酬点数表(令和8年版)K008 腋臭症手術(今日の臨床サポート掲載) https://clinicalsup.jp/jpoc/shinryou.aspx?file=ika_2_10_1_1_1/k008.html
  4. PMDA miraDryシステム 審議結果報告書・審査報告書(2018年、承認番号 23000BZX00161000) https://www.pmda.go.jp/medical_devices/2018/M20180611001/340679000_23000BZX00161000_A100_1.pdf
  5. 日本皮膚科学会 原発性局所多汗症診療ガイドライン2023年改訂版(2023年12月一部改訂) https://www.dermatol.or.jp/uploads/uploads/files/guideline/takansho2023_231220.pdf
  6. PMDA ボトックス注用50単位・100単位 添付文書(2026年6月改訂 第4版) https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuDetail/340278_1229404D1020_1_15
  7. PMDA エクロックゲル5% 添付文書(2023年4月改訂 第7版) https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuDetail/200022_1259700Q1027_1_06
  8. PMDA ラピフォートワイプ2.5% 添付文書(2023年5月改訂 第3版) https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuDetail/730155_1259701X1026_1_03
  9. 日経バイオテクONLINE プレスリリース掲載(2025年3月18日) https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/release/25/03/18/23602/
  10. Business Insider Japan(2026年1月30日) https://www.businessinsider.jp/article/2601-beyondaward2026-yuichi-fukunaga/
  11. Taxa Technologies 公式サイト https://www.taxatech.com/
  12. Swap ウェイティングリスト利用規約 https://swap.care/en/terms-and-conditions
  13. ビジネスジャーナル(2025年11月6日) https://biz-journal.jp/company/post_392024.html
  14. Forbes JAPAN(2026年8月25日) https://forbesjapan.com/articles/detail/103174
  15. 医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律 第2条(e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/335AC0000000145
  16. 遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律 第2条・第4条(e-Gov法令検索) https://laws.e-gov.go.jp/law/415AC0000000097
  17. 農林水産省 ゲノム編集技術で作出された生物のカルタヘナ法上の整理と取扱方針 https://www.maff.go.jp/j/syouan/nouan/carta/tetuduki/nbt_appendix.html

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