※PR
外来に、こういう人が来ることがあります。
健康診断で異常を指摘された。肝機能が高い、赤血球が多い、コレステロールがおかしい。本人には心当たりがあるけれど、それを言うかどうか迷っている。
この記事は、その人と、その人を診る側の両方に向けて書いています。
私は使うことを勧めません。ただし、すでに使っている人の健康を守らないという選択肢はありません。何を測り、どう読むのかを整理します。
なお、この記事は一般的な情報提供です。個別の診断や治療の判断に用いるものではなく、アナボリックステロイドの使用を推奨するものでもありません。
前提:正直に言えるかどうかが、いちばん大きい
検査の話に入る前に、これを書いておきます。
医師は、責めるために聞いているのではありません。 検査値の読み方が変わるから聞いています。
同じALT 120という値でも、使っているものがあるかどうかで、鑑別の順番が丸ごと変わります。伝えないままだと、無関係な精密検査に何か月も費やすことになります。逆に、伝えてもらえれば1回の採血で説明がつくことがあります。
言いにくいのはわかります。それでも、診察室で話したことが職場や大会に伝わることはありません。 守秘義務は医師の側の義務です。
1. 血算:多血になります
まず見るのは赤血球です。
アンドロゲンは造血を刺激し、エリスロポエチンの反応も高めます。その結果、二次性の多血症が起きます。
- ヘマトクリット
- ヘモグロビン
- 赤血球数
ヘマトクリットが54%を超えるあたりから、血液の粘度が上がることによる血栓のリスクが現実的な話になります。 脳梗塞や心筋梗塞が、若年でも起きます。
この段階では自覚症状がほとんどありません。顔が赤い、頭が重い、という程度です。だから採血でしか見つかりません。
対応は、まず原因を減らすことです。それができない状況では瀉血が検討されますが、根本の解決ではありません。
2. 脂質:HDLが落ちます
次が脂質です。ここは、経口剤を使っているかどうかで大きく変わります。
17α位をアルキル化した経口のアナボリックステロイドでは、HDLコレステロールが著しく下がります。 正常の下限を大きく割り込み、一桁になることもあります。同時にLDLが上がります。
これも自覚症状はありません。20代、30代では「まだ関係ない」と感じますが、動脈硬化は年単位で進むものなので、症状が出るころには手遅れです。
見る項目は次のとおりです。
- LDLコレステロール
- HDLコレステロール
- 中性脂肪
- non-HDLコレステロール
中止後、脂質は比較的よく戻ります。 ここは希望の持てる部分です。
3. 肝:筋肉由来と肝由来を、分けて読む必要があります
いちばん誤読されるのがここです。
健康診断でASTとALTが高いと、脂肪肝か肝炎を疑うのが普通です。ところが筋肉量が多く、高強度のトレーニングをしている人では、筋肉の損傷でASTとALTが上がります。
これを肝障害と取り違えると、不要な精査に進みます。逆に、本当の肝障害を「筋トレのせい」で片づけてしまうと、危険な見落としになります。
分けるために見るのは次の組み合わせです。
- CK(クレアチンキナーゼ) — 筋由来なら高く出ます。トレーニングの2日後に採血すると跳ね上がるので、いつ運動したかを聞く必要があります
- γ-GTP — 筋肉からはほとんど出ません。ここが上がっていれば肝由来を強く疑います
- ALP、総ビリルビン — 胆汁うっ滞型の肝障害で上がります
- LDH — 単独では判断できません
17α位をアルキル化した経口剤は、肝毒性が問題になります。 胆汁うっ滞性の黄疸、肝内に血液の溜まりができる肝紫斑病、肝腺腫が報告されています。注射で使うエステル型の製剤は、この点では相対的に負担が軽いとされます。
白目が黄色い、尿が濃い、体がかゆい。この3つが出たら、様子を見ずに受診してください。
4. 腎:クレアチニンを額面どおりに読まない
これも実務的に重要です。
クレアチニンは筋肉の代謝産物です。筋肉量が多い人では、腎臓が正常でもクレアチニンが高く出ます。
その結果、クレアチニンから計算するeGFRは、実際より悪く表示されます。健康診断で「腎機能低下」と判定され、驚いて受診する人がいます。
このとき有用なのがシスタチンCです。筋肉量の影響をほとんど受けないため、両方を測ると本当の腎機能が見えます。
ただし、腎機能が本当に悪くなることもあります。極端な筋量増加に伴う糸球体の負荷、脱水、非ステロイド性抗炎症薬の常用、そして横紋筋融解が重なる場面です。シスタチンCでも低下しているなら、そこは本物です。
尿蛋白も必ず見ます。
5. ホルモン:軸が止まります
外からアンドロゲンを入れると、下垂体は「足りている」と判断して指令を止めます。
見る項目は次のとおりです。
- LH、FSH — 抑制されて低値になります
- 総テストステロン — 使用中は高値、中止後は著しい低値になります
- エストラジオール — 芳香化を受ける薬剤では上がります。女性化乳房の原因です
- プロラクチン — ナンドロロン系やトレンボロンではプロゲステロン受容体への作用が絡み、乳腺症状が出ることがあります
- SHBG — 遊離テストステロンの解釈に必要です
中止後にいちばん困るのが、テストステロンが戻らない期間です。 数か月から年単位かかることがあり、その間は倦怠感、性欲低下、抑うつ、そして休止期脱毛が起こります。
6. 心臓:ここがいちばん怖い
若い使用者ほど軽く見ますが、報告されている重篤な有害事象の中心は心血管系です。
- 血圧 — 上がります。自宅で測ってください
- 心電図 — 左室肥大の所見、不整脈
- 心エコー — 左室の壁厚、拡張能の低下。長期使用者で心筋の線維化を示唆する所見が報告されています
心筋が厚くなり、拡張しにくくなる変化は、中止しても完全には戻らないことがあります。 ここが脂質と違うところです。
家庭での血圧測定は、最も手軽で最も見返りの大きい習慣です。
7. 血糖、前立腺、精液
残りをまとめます。
血糖とHbA1c。 成長ホルモンやインスリンを併用している場合、インスリン抵抗性と低血糖の両方が問題になります。
PSA。 前立腺への影響を追います。若年では基準値の解釈に注意が要ります。
精液検査。 挙児希望があるなら必須です。精子数の低下は使用期間が長いほど回復に時間がかかります。将来子どもを望むかどうかは、始める前に考えるべきことです。
8. 注射器を共有していないか
最後に、検査値ではない話をします。
注射で使用している場合、針や注射器を他人と共有すると、B型肝炎、C型肝炎、HIVの感染リスクがあります。 バイアルの共有も同じです。
これは薬理学の話ではなく、単純な感染管理の問題です。共有した経験があるなら、次の検査を受けてください。
- HBs抗原、HBs抗体
- HCV抗体
- HIV抗原抗体検査
保健所では匿名かつ無料で受けられる自治体が多くあります。
まとめて測るなら
上に挙げた項目の多くは、一般的な健康診断では測りません。特にシスタチンC、ホルモン、フェリチンは含まれていないことがほとんどです。
医療機関で相談するのが最善ですが、まず自分の状態を把握したいという段階なら、郵送の検査サービスという選択肢もあります。
PR
郵送の血液検査キット
肝機能や脂質を含むセットがあります。あくまで最初のスクリーニングであり、診断ではありません。異常が出た場合、そして症状がある場合は必ず受診してください。
医師に伝えてほしいこと
受診するとき、次を伝えてもらえると診療の質がまったく変わります。
- 使っている成分の名前(一般名でも、通称でも)
- 経口か注射か
- いつから、どのくらいの期間
- 現在も使用中か、中止して何か月か
- 併用しているもの(成長ホルモン、インスリン、アロマターゼ阻害薬、SARM)
- 過去に指摘された異常値
すべて言いたくないなら、せめて「使っているものがあります」だけでも伝えてください。 それだけで、検査の組み方が変わります。
関連記事
ご注意
この記事は一般的な情報提供であり、アナボリックステロイドの使用を推奨するものではありません。入手方法、使用量、使用計画については扱っていません。アナボリックステロイドは日本で医師の処方が必要な医薬品であり、販売および譲渡は薬機法に触れます。競技者にとってはドーピング禁止物質です。


コメント