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「うちは宿日直許可を取っているから、当直は労働時間に入らない」
多くの病院でこう説明されていると思います。ただ、この説明は半分しか正しくありません。
許可は病院という箱に対して出るものではなく、特定の勤務の形に対して出ます。 自分が入っている当直がその範囲に収まっているかどうかは、別の問題です。
なお、この記事は一般的な情報提供です。個別の適用については、勤務先の労務担当か、各都道府県の医療勤務環境改善支援センターに確認してください。
医療法の宿直と、労基法の宿日直許可は別物です
まず混同されやすい点から。
医療法第16条は、病院に医師を宿直させなければならないと定めています。この宿直を医師に行わせること自体には、労働基準監督署長の許可は必要ありません。
宿日直許可は、労働基準法上の話です。厚生労働省のFAQにはこう書かれています。
宿日直許可を受けた場合には、その許可の範囲で、労働基準法上の労働時間規制が適用除外となります
「その許可の範囲で」。ここが今日の話の全てです。
取得のラッシュは、すでに終わっています
医師に関する宿日直許可の件数は、厚生労働省が公表しています。
- 令和2年 … 144件
- 令和3年 … 233件
- 令和4年 … 1,369件
- 令和5年 … 5,173件
- 令和6年 … 2,715件
上限規制が始まる令和6年4月に間に合わせる形で、令和4年から令和5年に集中しています。
つまり、いま多くの病院にある許可は、この数年のうちに取られたものです。 取得時に提出した勤務実態と、いまの実態が同じとは限りません。
許可を受けるための条件
許可の条件は、次のとおりです。
- 常態として、ほとんど労働をする必要がないこと
- 通常の勤務時間の拘束から完全に解放された後のものであること
- 従事する業務は、一般の宿直業務以外には、特殊の措置を必要としない軽度の又は短時間の業務に限ること
- 宿直の場合は、夜間に十分睡眠がとり得ること。相当の睡眠設備が設置されていること
- 宿日直手当が、同種の労働者に支払われている賃金の1人1日平均額の3分の1以上であること
- 回数が、原則として宿直は週1回、日直は月1回以内であること
5番を知らない医師は多いはずです。 当直手当には下限があります。自分の勤務先の日給の3分の1を下回っていないか、一度計算してみてください。
なお、始業または終業の時刻に密着した時間帯に通常の労働を継続する形は、原則として許可の対象になりません。
ここが本題です。許可は「限って」出せます
FAQにはこう書かれています。
所属診療科、職種、時間帯、業務の種類(病棟宿日直業務のみ 等)を限った申請を行うことが可能です
深夜の時間帯のみ、病棟宿日直業務のみ、という許可が現に存在します。
たとえば、準夜帯は患者が来ることが多いため、準夜帯を外して、それ以降の宿直時間だけで申請するという形が認められています。地域で輪番制を採っている場合に、輪番日以外の日であることを前提とした許可も実際に出ています。
ここから何が言えるか。
「この病院は宿日直許可を持っている」は、「自分のその晩の勤務が労働時間に入らない」を意味しません。
- 許可が出ているのが別の診療科かもしれません
- 許可が出ているのが深夜帯だけで、準夜帯は労働時間かもしれません
- 許可が出ているのが病棟業務のみで、救急対応は範囲外かもしれません
確認するなら、「許可を取っていますか」ではなく「どの範囲で取っていますか」と聞いてください。
なお、救急や産科だから許可を取得できない、ということはありません。実際に救急や産科で許可を取得している事例があります。
「軽度の業務」と「通常と同態様の業務」の線引き
許可の範囲内かどうかは、その晩に何をしたかで決まります。厚生労働省の様式の記入要領に、具体例が挙げられています。
軽度の又は短時間の業務に当たるもの
- 少数の要注意患者の状態の変動に対応するため、問診等による診察等や、看護師等に対する指示、確認を行うこと
- 外来患者の来院が通常想定されない休日・夜間に、少数の軽症の外来患者やかかりつけ患者の状態の変動に対応するため、問診等による診察等や、看護師等に対する指示、確認を行うこと
通常の勤務時間と同態様の業務に当たるもの
- 突発的な事故による応急患者の診療または入院
- 患者の死亡への対応
- 出産への対応
後者に当たる時間は、宿日直許可があっても労働時間です。
呼ばれた分は、手当とは別に賃金が発生します
ここは給与に直結します。
許可を受けた宿日直中に「通常と同態様の業務」を行った場合は、その時間は労働基準法上の労働時間として取り扱う必要があり、宿日直手当とは別に本来の賃金(必要な割増賃金を含む)を支払う必要があります
当直手当に含まれている、という扱いにはなりません。 36協定の手続きも必要です。
深夜に3時間叩き起こされて緊急対応をしたのに、支給が当直手当だけで終わっているなら、実態と合っていない可能性があります。
実態が離れると、許可の効力が消えます
もう1つ、重い話があります。
許可の内容に沿った運用ができなくなった又は許可の内容から勤務実態が事実上乖離してしまった場合には、許可の効力が及ばなくなる(宿日直中の全ての時間が労働時間となる)可能性があります
一部ではなく、宿日直中の全ての時間です。
許可の後に人員の異動や業務内容の変更があり、宿日直中に通常勤務と同じ業務に従事することが常態になっている場合は、勤務内容の見直しが必要とされています。
取得から数年が経った許可ほど、確認する価値があります。
回数は「医療機関ごと」に数えます
外勤で当直に入る医師にとって、ここは実務的に効きます。
原則は宿直が週1回、日直が月1回ですが、例外は実際に認められています。 宿直週2回や日直月2回といった形で許可された事例があります。医師不足の地域で、土曜夜の宿直から日曜昼の日直、日曜夜の宿直まで連続して行う体制を確保するための例外も認められています。
そして、回数の数え方について、FAQは明確です。
宿日直許可の回数の限度は、医療機関ごと(本務先と兼業先それぞれ)で認められた回数を示していますので、医療機関ごとに認められた回数の範囲内で宿日直許可のある業務に従事することが可能です
本務先で週1回、兼業先で週1回。同じ週に2回とも、許可のある宿直に従事できます。
また、非常勤の医師も宿日直許可の対象です。 常勤でなければ対象外、ということはありません。
ただし、労働時間の通算は別の話です。許可の範囲外で働いた時間は、どの勤務先のものであっても上限に積み上がります。
勤務間インターバルとの関係
許可には、もう1つ効果があります。
宿日直許可を受けた宿日直のうち、9時間以上連続したものについては、勤務間インターバルの休息時間として取り扱えます。
裏を返すと、許可のない当直は休息として扱えません。 同じ一晩でも、シフトの組み方への影響がまったく違います。
求人を見るときに聞くこと
外勤やスポットの当直を選ぶとき、単価の前に確認しておくと安全な項目があります。
- 宿日直許可の有無と、その範囲 … 診療科・時間帯・業務の種類のどこまでか
- 実際の呼び出し回数 … 許可の範囲を超えていないか
- 呼ばれた場合の賃金の扱い … 当直手当とは別に支払われるか
- 終了時刻と、そのあとの業務 … 朝の回診や外来が続いていないか
1番は求人票にまず書かれていません。 直接聞くしかない項目です。
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許可の範囲は、担当者を通すと確認できることがあります
宿日直許可をどの範囲で取っているか、呼ばれた場合の賃金がどう扱われるかは、求人票に載らない情報です。紹介会社の担当者に確認してもらうと、応募前に分かることがあります。
まとめ
- 医療法16条の宿直と、労基法の宿日直許可は別の制度
- 許可はその許可の範囲でのみ労働時間規制を適用除外にする
- 診療科・職種・時間帯・業務の種類を限った許可が実在する
- 確認すべきは「取っているか」ではなく「どの範囲で取っているか」
- 手当の下限は、同種の労働者の1人1日平均額の3分の1以上
- 突発的な事故の応急診療、患者の死亡、出産への対応は通常と同態様の業務
- その時間は宿日直手当とは別に、割増賃金を含む本来の賃金が必要
- 実態が許可の内容から乖離すると、宿日直中の全ての時間が労働時間になる可能性がある
- 回数の限度は医療機関ごと。本務先1回と兼業先1回は両立する
- 非常勤の医師も許可の対象
- 9時間以上連続した許可ありの宿日直は、勤務間インターバルの休息として扱える
「許可を取っているから大丈夫」で止めないでください。 範囲を聞けば、答えは出ます。
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ご注意
この記事は一般的な情報提供であり、個別の労務判断を示すものではありません。記載内容は厚生労働省が公開している「医療機関の宿日直許可に関するFAQ」および宿日直許可基準の資料をもとに整理していますが、制度は見直しが進められており、要件や数字が変わることがあります。勤務先の許可の有無と範囲、労働時間の算定、賃金の取り扱いについては、勤務先の労務担当、所轄の労働基準監督署、または各都道府県の医療勤務環境改善支援センターにご確認ください。


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