「どの科が儲かるのか」。身も蓋もない問いですが、進路選択や転職を考えるうえで、年収の相場観は知っておいて損のない情報です。
この記事では、公開データをもとに診療科別の年収ランキングを整理し、そのうえで「数字の裏側」——なぜ差が生まれ、その差はどこまで自分に当てはまるのか——を解説します。
なお、年収データは調査によって数値が大きく異なります。この記事の数値は特定調査の一例であり、個々の求人・地域・働き方で大きく変わることを前提に読んでください。
ランキング — 上位と下位の顔ぶれ
医師紹介会社(民間医局)の常勤成約実績データによる診療科別の年収例を挙げます。
上位グループの例:
- 美容外科: 約2,200万円
- 美容皮膚科: 約2,000万円
- 血管外科: 約1,791万円
- 整形外科: 約1,758万円
- 外科: 約1,688万円
続いて、心臓血管外科(約1,635万円)、消化器外科(約1,620万円)、循環器内科・脳神経外科(約1,600万円)などの外科系・急性期系が並びます。
一方、相対的に低めのグループの例は、小児科(約1,236万円)、産業医・放射線科(約1,200万円)、健診(約1,100万円)など。精神科(約1,353万円)、眼科(約1,380万円)、皮膚科・麻酔科(約1,300万円)は中位です。
大事な注釈を2つ。第一に、これは転職市場の成約データであり、勤続者を含む平均とは性質が違います。第二に、下位グループでも一般の給与水準からは大きく高く、「低い」はあくまで医師内の相対比較です。
なぜ差が生まれるのか — 3つの構造
ランキングの数字より、差を生む構造を知るほうが役に立ちます。
- 自由診療の比率: 美容系が突出するのは、保険点数に縛られず価格を設定できるからです。市場原理がそのまま単価に乗ります
- 当直・オンコールと稼働の重さ: 外科系・急性期系の高年収には、夜間拘束と長時間労働の対価が含まれています。時給換算すると差が縮む、あるいは逆転する科もあります
- 需給バランス: 医師が集まりにくい科・地域ほど、好条件が提示されます。同じ科でも地方で数百万円上がるのはこの構造です
つまり「高年収の科」の多くは、自由診療か、重い稼働か、需給の歪みのどれかを取りに行った結果です。無条件に高い科は存在しません。
経営母体と年代でも変わる
診療科以外の変数も大きく効きます。厚生労働省の第25回医療経済実態調査(令和7年実施)では、一般病院の勤務医1人あたりの給料と賞与の合計(令和6年度)は、医療法人で約1,577万円、国立で約1,290万円と、経営母体で300万円近い差があります。大学病院の給料で書いたとおり、大学はさらに別の構造です。
| 一般病院の開設者 | 勤務医1人あたり(給料+賞与) |
|---|---|
| 医療法人 | 約1,577万円 |
| 公立 | 約1,551万円 |
| 公的 | 約1,383万円 |
| 国立 | 約1,290万円 |
| 一般病院全体 | 約1,485万円 |
| (参考)病院長・一般病院全体 | 約2,587万円 |
出典:厚生労働省「第25回医療経済実態調査の報告(令和7年実施)」一般病院・開設者別の職種別常勤職員1人平均給料(集計1)。給料には時間外勤務手当を含みます。万円未満を四捨五入。厚生労働省の公表ページ
年代でも差が出ます。勤務医の給与は卒後年数とともに上がるのが一般的で、40代から50代で役職が付くかどうかでも開きます。年代別の数字を見るときは、どの調査が何を数えた数字なのかを必ず確かめてください。
開業医の年収ランキング — 診療科別の損益差額
開業医の数字は、転職市場のデータには出てきません。そこで、厚生労働省が公表している第25回医療経済実態調査(令和7年実施)から、個人で開業している一般診療所の「損益差額」を診療科別に並べました。損益差額は、医業収益から人件費や薬剤費を含む費用を引いた残りで、個人開業医の場合はここが院長の取り分の原資になります。数字は令和6年の1年分です。
| 順位 | 主たる診療科 | 1施設あたり損益差額 | 集計施設数 |
|---|---|---|---|
| 1 | 小児科 | 約3,729万円 | 29 |
| 2 | 眼科 | 約3,722万円 | 42 |
| 3 | 耳鼻咽喉科 | 約3,181万円 | 28 |
| 4 | 整形外科 | 約3,065万円 | 39 |
| 5 | 外科 | 約2,757万円 | 17 |
| 6 | 内科 | 約2,471万円 | 237 |
| 7 | 産婦人科 | 約2,026万円 | 15 |
| 8 | 精神科 | 約1,978万円 | 24 |
| 9 | 皮膚科 | 約1,672万円 | 33 |
| - | 個人立の一般診療所全体 | 約2,656万円 | 478 |
出典:厚生労働省「第25回医療経済実態調査の報告(令和7年実施)」一般診療所(個人)主たる診療科別の損益状況(集計2)。万円未満を四捨五入。厚生労働省の公表ページ
この表を読むときの注意を3つ書いておきます。
- 損益差額は税引前です。ここから所得税と住民税を払い、開業時の借入の元本を返し、建物や医療機器の更新費用も積み立てます。院長の手取りとは別物です
- 集計施設数が少ない科があります。小児科は29施設で、前の年は約5,435万円でした。1年で1,700万円動く数字なので、順位は目安として見てください
- 勤務医のランキングで下位だった小児科が、開業では上位に来ています。勤務医の求人データと開業の損益は、別の物差しで測った数字です。並べて比べないでください
勤務医と開業医の年収の差はどれくらいか
同じ調査で並べると、一般病院の勤務医は1人あたり約1,485万円、個人開業の一般診療所の損益差額は約2,656万円です。差額だけ見ると開業医が1,000万円以上多く見えます。
ただ、私はこの差をそのまま「開業すれば年収が上がる」とは読みません。勤務医の数字は給料と賞与で、退職金や社会保険の事業主負担は病院が持っています。開業医の損益差額は、借入の返済、設備の更新、自分の退職金づくりまで、すべてをそこから賄う前の金額です。そして経営の損失を引き受けるのも本人です。
皆さんが比べるべきなのは年収の額ではなく、借入と経営の責任を引き受けたうえで、手元にいくら残るかです。開業を考えるなら、診療科のランキングより先に、自分の地域で同じ科の診療所がどれだけ患者を集められているかを確かめてください。
勤務医のまま年収を上げる方法は医師の年収の上げ方で整理しています。
ランキングの使い方 — 科を変える前にできること
このランキングを見て転科を考えるのは、たいてい早計です。専門医の取り直しには年単位のコストがかかり、適性の合わない科への移動は長期では損になりがちです。
現実的なのは、同じ科の中で条件を動かすことです。医師の年収の上げ方で書いたとおり、勤務医の年収は科よりも「どこで・どんな条件で働くか」の影響が大きく、同じ科でも勤務先次第で数百万円動きます。市場の相場を知るには転職エージェント経由の情報収集が近道です。
そして、年収の高低より効くのが、稼いだ後の設計です。高年収でも税と支出で残らない医師と、中位の年収でも資産が積み上がる医師の差は、資産形成の順番で決まります。
まとめ
診療科別年収は、美容系・外科系・急性期系が上位、小児科・健診系などが相対的に下位という構図ですが、差の正体は自由診療・稼働の重さ・需給の3構造です。数値は調査によって大きく異なり、経営母体と地域でも数百万円動きます。
ランキングは転科の理由ではなく、「同じ科の中で条件を見直す」ための相場観として使ってください。そして最終的な家計を決めるのは、年収そのものより、稼いだ後の設計です。
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