※PR
「プロテインを飲むとハゲる」
この噂は10年以上前からあり、いまも消えません。検索すると、それらしい説明がいくつも出てきます。
先に結論を書きます。ホエイプロテインの摂取が男性型脱毛症(AGA)を進行させるという、人を対象にした信頼できる根拠はありません。
ただし、この噂には出どころがあります。まったくの無から生まれたわけではないので、その中身を分解します。どこまでが本当で、どこで論理が切れているのかがわかると、判断しやすくなります。
なお、この記事は一般的な情報提供です。個別の診断や治療の判断に用いるものではありません。
噂の出どころ1:IGF-1を経由する説
もっともよく見かける説明はこうです。
- ホエイプロテインはロイシンを多く含み、吸収が速い
- インスリンとインスリン様成長因子(IGF-1)の反応を起こす
- IGF-1は5α還元酵素の活性に影響しうる
- だからDHTが増えてAGAが進む
1から3までは、それぞれ個別には議論されている話です。切れているのは3から4への飛躍です。
IGF-1と毛包の関係を扱った研究は確かにあります。ただし実験室レベルの細胞や動物の話であり、しかも方向はむしろ逆のことが多い。IGF-1は毛包の成長期を保つ側の因子として扱われています。育毛の文脈でIGF-1を上げようとする研究があるくらいです。
さらに言えば、食事によるIGF-1の変動幅は、AGAの進行を左右するほどのものではありません。もしその程度で決まるなら、しっかり食べている人が全員薄くなることになります。
噂の出どころ2:乳製品とニキビの話との混同
もう1つの出どころは、混線です。
乳製品、特に低脂肪乳の摂取とざ瘡(ニキビ)の関連については、複数の観察研究で弱い関連が報告されています。これは脱毛の話ではありません。皮脂と毛穴の話です。
ところが「乳製品はアンドロゲン系に影響する」という要約だけが独り歩きすると、ホエイ(乳清)も同じ枠に入れられ、脱毛に接続されてしまう。
ニキビと薄毛はどちらも皮脂とアンドロゲンが関係するので、混同しやすい。ただし機序も治療も別物です。
噂の出どころ3:飲んでいる人の属性
これが実は一番大きいと思っています。
プロテインを毎日飲む習慣がある層と、アナボリックステロイドやSARMを使う層は、母集団が重なります。重なるだけで、因果はありません。
「プロテインを飲んでいる知人が薄くなった」という観察は、しばしばプロテイン以外の何かを見ています。この点については別記事で扱っています。
逆です。足りないほうが抜けます
ここからが、私が本当に伝えたい部分です。
毛髪の主成分はケラチンというタンパク質です。タンパク質が不足すると、体は毛の合成を後回しにします。 生命維持に直接関わらないためです。
その結果として起きるのが休止期脱毛です。
臨床的にはっきりしているのは次のような場面です。
- 急激な減量や、極端な食事制限をした後
- 摂食障害、消化吸収の問題があるとき
- 肥満外科手術の後
- 高齢者で食事量が落ちているとき
いずれも共通しているのは、タンパク質とエネルギーが足りていないことです。
つまり、プロテインを避けて摂取量を落とすほうが、髪にとってはリスクです。 噂を信じて減量中にタンパク質を削るのは、逆方向に進んでいます。
どれくらい摂ればいいのか
筋肥大を目的とした場合、体重1kgあたり1日1.6g程度で効果が頭打ちになるという解析がよく引用されます。体重70kgなら約112gです。
食事だけで届くならそれで構いません。届かない分を埋める道具として、プロテインは合理的です。
どの商品を選ぶかは、この記事の範囲ではありません。1食あたりのタンパク質量と価格で比べたい場合は、別記事に商品ごとの比較をまとめています。
お腹が張る、下痢をするという人へ。 それは高い確率で乳糖不耐です。プロテインが体質に合わないのではなく、乳糖が合っていません。乳糖をほぼ除いたWPI(ホエイプロテインアイソレート)に変えると解決することが多いです。
ソイプロテインのイソフラボンはどうなのか
「大豆のイソフラボンは女性ホルモン様の作用があるから、男性が飲むと影響が出る」という話もあります。薄毛に関しては、むしろ「DHTを抑えるから良い」という逆方向の主張もあり、両方向に噂があります。
現時点での私の理解はこうです。
通常の食習慣の範囲では、男性のホルモン環境を臨床的に意味のある水準で変える根拠は乏しい。 男性の血中テストステロンやエストロゲンへの影響を検討した解析では、明確な変化は示されていません。
薄毛を良くする効果も、悪くする効果も、期待しないほうがいいということです。動物性を避けたい人や、ホエイが合わない人の選択肢として選べば十分です。
高タンパクは腎臓に悪いのか
ついでに、よくセットで聞かれる質問にも答えておきます。
腎機能が正常な人において、高タンパク食が腎障害を起こすという明確な証拠はありません。 蛋白負荷でクレアチニンや尿素窒素の数値が動くことはありますが、それは糸球体の過剰濾過を反映した生理的な変化であって、腎臓が壊れたことを意味しません。
ただし、すでに慢性腎臓病がある人は別です。この場合は主治医の指示に従ってください。腎機能に不安があるなら、自己判断で高タンパク食を続けずに一度評価を受けるほうが安全です。
なお、筋肉量が多い人はクレアチニンが高く出ます。それだけを見て腎機能が悪いと判断されることがあるので、シスタチンCという別の指標を併せて測ると誤解が減ります。
→ アナボリックステロイド使用者の血液検査で、医師が見ているもの
まとめ
- プロテインがAGAを進行させる根拠はない
- IGF-1を経由する説は、3段目から4段目で論理が切れている
- 乳製品とニキビの話が混ざって伝わっている
- 不足のほうが、はるかに脱毛のリスクが高い
- 抜け毛が気になるなら、疑うべきはプロテインではなく減量のペースと使っている他のもの
抜け毛の原因を探すとき、いちばん無害な候補から疑う癖があります。 プロテインは疑いやすい。しかし、そこを削っても状況は良くなりません。
生え際と頭頂部から進んでいるなら、それはAGAです。プロテインを断つ前に診断をつけてください。
AGAかどうかを、まず医師に確認する
進行しているなら、早い段階で始めるほど守れる範囲が広くなります。オンライン診療なら、対面で話しにくいことも伝えやすい。
関連記事
ご注意
この記事は一般的な情報提供であり、特定の製品の効果を保証するものではありません。持病がある人、薬を服用している人は主治医に相談してください。


コメント